「基地警備訓練」

航空自衛隊では、定期的に「基地警備訓練」を行います。
9.11事件以来、従来の警備態勢でテロなどに対応するには、不充分であるとして、平成23年に、茨城県の百里基地に「基地警備教導隊」というものが航空総隊隷下の直轄部隊として発足しました。隊長以下40名の規模ですので、各基地を巡回して、その基地の特性などから、適切な警備がどうあるべきかなどを研究しています。
しかしながら、まだまだ発足したばかりですので、各基地では、自前の警備訓練を実施しているのが現状です。
 私は大掛かりな警備訓練に2度参加しました。一度目は浜松の第1術科学校に入校中にあった、浜松基地全体の警備訓練でした。我々学生は「フェーカー(仮想敵)」になり、トラックでいろいろな地点にばらまかれて、それぞれが基地に侵入し重要施設を破壊するという任務を与えられました。今思えば、カービン銃を担いで、街中をうろうろしても、誰も何とも思わなかったのが不思議です。今なら直ちにパトカーが飛んできて「不審者」として拘束されるでしょう。畦道を歩いていると蛇が10数匹田んぼの中を泳ぎながら逃げたのを鮮明に記憶しています。余談ですが、そういえば蛇も少なくなりましたね。
 私は夜まで基地周辺を回り、石油貯蔵施設がある場所を攻撃することにしました。警備する方は、隊員がそれぞれ守っているはずです。我々は若干気楽で、つかまって当然ですが、警備する方は施設を破壊されたりすると大変ですので、かなり緊張状態で迎え撃ちます。
警備訓練では、外柵の鉄条網や金網を切っても構わないので、金網を切って侵入しました。
長い草が生えていて、それをかき分け、かき分け進みますので、ガサガサと音がします。「これでバレていないのかなぁ」と思いつつ、繁みの間から少し顔をあげてみると、石油貯蔵施設までは芝生が10メートル程刈り込んであり、誰も居ません。「しめた」と思い、ほふく前進で、頭を下げて進みました。気が付いたら私のすぐ傍で10名ぐらいの警備隊側の隊員が笑って銃を構えていました。とっくにバレていたのです。指揮所に連行されて、一巻の終わりでした。警備側もあまり「ひつこくやるなよ」という感じで、じりじりして待っていたようです。
 ところが、同僚のU3尉は、基地の地中に張り巡らされている下水道に侵入し、たまたま頭上にあったマンホールをあけると、総司令部のある建物前の売店駐車場でした。そこで、指揮所本部爆破の大手柄を立てたわけです。連行されてきたU3尉はずぶ濡れでした。
しかし考えてみると、下水道網などはどこがどうなっているのか全く分かりません。真っ暗闇の中を手探りで進み、たまたま上にマンホールがあったのですが、それもマンホールのふたの上に車が止まっていれば、終わりです。行方不明者になっていたかもしれません。
より実際的な訓練の場合、仮想敵は、陸自の空挺隊員が務めますが、3日ぐらい前から目標近くに潜伏しているそうです。さらに本物のゲリコマが相手なら、どちらも生死をかけた攻防になるのです。特に自爆もいとわない敵との攻防はシビアーな対応が必要です。

次に印象深いのは、私が防衛大学校の研究科を卒業し、岐阜基地に戻ってきたころのことです。当時は「ナイキハーキュリーズ」の各地への配備時期で、岐阜基地にも配備されるため、反対運動でデモ隊が基地に押しかけてきていました。
表面的には警察が対応するのですが、部隊も警備を強化していました。2尉になっていた私は、警備中隊長として、100名ぐらいの隊員の指揮官を命じられました。
その時の体験で、2つのことを印象深く記憶しています。一つは、警備と言っても隊員の中には危機感を持たない者がいます。ある時、そのような隊員の一人が、たばこを吸ったのです。ただちに叱りつけ、止めさせました。何故かというと、暗闇で吸うたばこは非常に目立ち、目標になりやすいのです。私は25歳ぐらいの若僧です。向こうはベテランの隊員です。普通なら、「フン」というような態度をとられますが、「君の行為は、全員を危険にさらしているのだぞ」とたしなめますと、素直に従ってくれました。与えられた任務に真正面から取り組んで、物事を判断すると、隊員も理解し、整斉と従うものだなと思いました。もう一つは、より戦術的なことなのですが、隊員を指揮するにあたって、通常の号令にない動作が必要になります。例えば、低い姿勢のまま、左右に移動する場合などです。この時は、予令の予令のように、あらかじめ「次は左に動くぞ」と伝えておき、「左へ」と号令すると、スムースに動きます。コミュニケーションの大事さでしょうか。
 このようなことを私の中隊はやっていました。デモ隊が帰ると、所属部隊に帰ります。元気いっぱい全員で掛け声をかけ、足並みをそろえて駆け足で部隊に帰ると、司令部にいた先輩が「よくやるなぁ」と言ってくれました。今でも誇らしく鮮明に記憶しています。(島本順光)