「階級意識」

自衛隊では、将官から、曹士まですべて順番がつけられています。旧軍では「技術将校」「経理将校」などには指揮権がなく、別扱いになっていましたが、自衛隊では一応全員の中の先任者が指揮権を持つことになります。
これは、自衛隊が、戦争に備える武力集団であるため、戦闘状態を想定すると、上級指揮官が負傷、戦死などで指揮をとれなくなった場合、だれが指揮をするかを明確にしておく必要があるためです。大きな部隊から、小さな分隊、班まで、極端な場合、2人になった場合でも、どちらかが指揮をすることになります。
部隊や駐屯地でも、2人で歩いていて、上官とすれ違う時には、どちらかが「敬礼」と号令します。
この様な序列を「建制順(けんせいじゅん)」と言います。旧陸・海軍では兵科職種のみが指揮権を持ちましたが、自衛隊では、医官も含め全員が「幹部名簿」の順位で序列が決まっています。
このことは、退職した自衛官にもかなりの影響をしています。同期生などでは、「俺、お前」であまり在職時の階級は関係ありませんが、そのほかの者が集まると、どうしても階級意識が働きます。陸上自衛隊の幹部OBの会に「偕行社」というものがあり、海上自衛隊には「水交会」、航空自衛隊には「つばさ会」という組織があります。「偕行社」「水交会」は旧陸海軍の将校・士官のOB組織を継承したものです。全自衛隊の組織としては「隊友会」というものがあり、この組織は幹部だけでなく曹士会員も参加します。また、賛助会員として現職の自衛官も参加しています。
これらの会の会長は、おおむね各自衛隊の幕僚長を務めた方が、順次勤めています。
順送りで、出身期別の若い人に会長職を譲っていくのが慣例となっています。
役職者も、おおむね会長とのバランスで退職時の階級に応じた配置となっています。
自衛隊の部隊で、階級があることは当然のことですが、現職の自衛官の官舎地区でも、奥様方に「階級」がついているという話もあります。すなわち、駐屯地での夫である自衛官の階級で、それぞれの奥様方が統制されているということのようです。私は自衛隊の官舎に住んだことがありませんので、実態は詳しく知りませんが、司令官の奥様にもよりますが、結構厳しい統制状態もあるようです。
さて、自衛官本人が退職した場合ですが、今は、関連企業などに再就職することが一般的です。一般社会では、自衛隊の階級は全く通用しません。「空将?何それ」という感じです。
そこで、その人その人の価値が問われます。関連会社に就職しているうちは、現職時の階級がある程度通用します。しかし、関連会社から出ると、全く通用せず、その人の「人となり」、「能力・行動力」、「人脈」などで判断されます。
一般社会に適応力のある人は、自衛隊で培った能力を発揮して、会社に貢献し、高い評価を受けることになります。私の同級生でも、超一流企業で高い評価を受け、定年後も再雇用を要請された者もいます。
逆に、階級意識でしか生きられない者もいます。ただ、在職時の階級が上だったというだけで、人との接触方法を固定的に見るものです。こういう人は、現職に対しても、先輩風を吹かせ、あまり良い感情を与えないのが普通です。ただ、表面では、逆らったりできませんので(時々「キレれる」人もいますが)、裏では相当悪く言われてしまいます。
OB同士でも同様に、「○○期の△△さんは、どうなってるの」などと言われてしまいます。
直接本人に意見するということも、あまりありませんので、(そういう人は、あまり人の意見を受け入れません)益々、孤立してしまうのが現状です。
「階級意識」を捨てて、一人の人間として、他人と接し、新しい人間関係を築いていくと共に、国家社会に貢献することを考えたいものです。(島本順光)