陸・海・空各自衛隊の違ったところシリーズ (3)

「もろもろ」

一般的に、陸上自衛隊と、航空自衛隊は余り違いはありません。海上自衛隊だけが違っているケースがかなりあります。制服、階級章等もそうです。
以前、防大1期生のT元空将が言っていましたが「陸上と航空は自衛隊だけど、海上は違うよ、あれは海軍だ」とのことです。
一例を挙げますと、陸、空は幹部自衛官に対して「号令」をかけます。しかし、海上自衛隊は幹部自衛官(士官)には号令をかけません。練習艦隊の壮行会が晴海で行われますが、そのときも防衛大臣などに敬礼する際、幹部候補生、部隊基幹要員などは号令で敬礼しますが、並んでいる幹部自衛官はそれに合わせて敬礼しているだけで、号令で敬礼しているわけではないのです。細かく見ると分ります。

以下「もろもろ」のことについて、違いを説明します。色々異論もあると思いますが「面白話」として理解してください。
 このシリーズ第1回目で陸上自衛隊のことを「用意周到 責任不在」と言ったら「責任不在」とはおかしいと言うことで訂正しました。しかしその方は航空自衛隊の「支離滅裂」には何も言われなかったのです。「支離滅裂」と言うのも結構酷い表現だと思うのですが。
では、

(各自衛隊の航空機が緊急事態(エマージェンシー)になった時
陸上自衛隊機は「陸」へ、海上自衛隊機は「海」へ、航空自衛隊機は、なるべく高い所(空)へ向かおうとするといわれています。
陸上自衛隊は「地文航法」という、地上の目標物を基準に飛んでいるので、緊急時なるべく地上の不時着地点となる空き地を探しながら、できれば基地に帰ろうとします。ヘリコプター等は常に、エンジンが止まったらどこに降りるかを考えながら飛んでいるそうです。
海上自衛隊は、海へ出てしまえば、民家などへの被害はなく、不時着水して海上で漂流しても、海上自衛隊の救難機や多用途機等に発見してもらい易く、救難飛行艇や救難ヘリコプターあるいは艦艇などの救助を待つという考えで、海に向かうということです。しかしながら、一度も不時着水したことはないそうです。
航空自衛隊は、他に比べて速度が速いため、飛行場でないと不時着は極めて困難です。そこで、なるべく高度をとって、運動エネルギーを蓄え、遠くまで飛べるようにし、近くの飛行場に着陸することを狙います。しかし戦闘機などは安定性がなく、操縦不能になる確率が高く、着陸が間に合わない場合は、海や民家のないところを目指し、脱出装置で脱出し、航空機は放棄します。この際、自分の生存確率を高めるためにも、レーダーで自分の位置を補足してもらう必要があり、高度をとることが必要なのです。
一番怖いのは離陸直後にトラブルが発生したときです。余り高度がないし、機体が安定していません。しかも市街地が近いので、国民に被害が及ぶ可能性が高いのです。
平成11年に入間基地を発進したT-33練習機は離陸直後エンジントラブルで飛行不能となりました。パイロットは市街地に突っ込むことを避けるため、自分は脱出せず、入間川の河川敷に墜落させました。当然パイロット2名は死亡しました。
今は平時ですので、攻撃を受けて破損し、エマージェンシー状態になることはありま
せんが、有事になれば自然とこのような行動になるのではないでしょうか。

(地図)
作戦、訓練、演習、研究など色々な場面で地図を使います。このとき使用する地図の縮尺が各自衛隊で違うのです。
陸上自衛隊は「歩く速度」、海上自衛隊は「船の速度」、航空自衛隊は「航空機の速度」に応じた縮尺の地図を使うといわれています。
そもそも、海上自衛官に「地図」と言っても、「何のこと?」という反応が返ってきます。色々説明すると、「ああ チャートね」と答えます。地図を英語で言っただけじゃないかと思いますが、海上自衛隊の場合、主として海図ですのでインターネットで引くのも「チャート」で引いた方が出てきやすいようです。
陸上自衛隊は概ね5万分の1の縮尺の地図が基本です。連隊規模の場合、担当正面が理解できる縮尺だそうです。師団規模では10万分の1以上も使用するとのことです。逆に中隊の訓練などでは、2万5千分の1又はそれ以下のものも使うとのことです。
海上自衛隊の「チャート」の縮尺は、港内航行時は5万分の1、通常は10万分の1、遠洋航海などでは500万分の1まで使うそうです。「しかし、今は電子チャートがありますからねー」と、誇らしげに言っていました。「だから?」陸・空もありますよ。
航空自衛隊は大体20万分の1以上のものを使います。戦闘指揮所では、防空識別圏(ADIZ*)以内の我が国国土全体が画面表示されています。対象機の速度などの諸元などが瞬時に識別され、画面表示されます。何事も瞬時に判断しなければならない航空自衛隊の特性でしょうか。
結局のところ、目的・用途等によって各自衛隊は、色々の縮尺の地図、チャートを使いますが、結論的には、最初に述べた、「陸は歩く速度、海は船の速度、空は飛行機の速度に応じた縮尺を使う」というのも、あながち間違っていませんね。

ところで前回「ことば」の最後に、「テールパイプフェイリャー」はなんでしょうと質問しました。これは「痔」のことで、人間の体の排出部が故障していることを、少しきれいに言ったものです。航空自衛隊はスマートですね。

   *  ADIZ Air Defense Identification Zone