「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」の評価
昨17日「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」が決められた。
両方とも国家防衛の基本を定めるものであり、本来ならば憲法を改正し安全保障基本法を定め、それに則って決めなければならないのだが、今すぐ憲法改正は間に合わない。従って、今回の策定作業で重要なことは、憲法に抵触しない範囲でどこまで本来の「あるべき姿」を追求できるのかという点にあった。
極めて難しい課題だったのだが、まず「国家安全保障戦略」を相当具体的に書くことによって、わが国が進むべき方向を明らかにした。
従来までの「国防の基本方針」(昭和三十二年閣議決定)は、概要を記述したに過ぎなかったが、今回はそれに変わるものとして、具体的な国家安全保障の目標と各種施策を掲げている。これによって、目標も明らかになってきた。
「防衛計画の大綱」は、「国家安全保障戦略を踏まえ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場を貫き、自国の外交力、防衛力等を強化するとともに、日米同盟を基軸として、世界の平和と安定及び繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく」と書いているが、憲法の枠内で施策しなければならないという縛りもあるため「日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備する」となっている。
要するに、専守防衛と非核三原則の呪縛から逃れることができなかったことが、基本的な問題として残ってしまった。
例えば、目下焦眉の急になっている島嶼防衛について、「必要な部隊を速やかに機動展開し、海上優勢及び航空優勢を確保しつつ、侵略を阻止・排除し、島嶼への侵攻があった場合には、これを奪回する。その際、弾道ミサイル、巡航ミサイル等による攻撃に対して的確に対応する。」と書かれているが、敵基地攻撃は見送ったため、本当に的確な対応ができるのか疑問である。
また、弾道ミサイル攻撃への対応についても、「発射に関する兆候を早期に察知し、多層的な防護態勢により、機動的かつ持続的に対応する。」となっているが、敵基地攻撃を見送って防護態勢だけで対応するのは無理だろう。
核兵器の脅威に対しても、米軍の核抑止力に依存しているのに、非核三原則を掲げ自らその効果を減退させている。
憲法を改正し基盤を改めないと抜本的な問題解決には無理があり、今回のように憲法はまだ改正できないという現実の中では、この辺が限界なのだろう。
目下の国内事情から判断すれば内容は十分に評価できるものだが、願わくば、憲法を改正し基本を正す施策を早く進めてもらいたいものである。
だが、急な加速は政権が失墜しかねないし、目下の情勢ではこの程度の加速が最適と考えたのだろう。加速の程度は逐次修正すると思われ、「国家安全保障戦略」も十年ぐらいのもので、状勢に応じて適宜見直すとしたのはそのためだろうと思っている。(松島悠佐)