「潜水艦破壊のメカニズム」(解説編スペシャル)

ボストンマラソンで、爆弾テロがありました。爆発物が破裂すると、爆発の圧力(爆風効果)と、破片が飛び散り、人や物を殺傷・破壊します。
核弾頭は別にして、通常兵器による地上での戦闘に使用する砲弾なども、基本的には爆発による、爆風効果、破片効果により、ものを破壊したり、人員を殺傷するものです。装甲で護られた戦車を破壊するには、特別な弾頭を必要としますが、基本的には、熱や爆発力によるものです。
航空機は非常に脆弱であるため、航空機を破壊するための空対空(AAM)、地対空(SAM)のミサイルなどは、主に破片効果で破壊する弾頭を持っています。一カ所でも損傷すれば、墜落に至るからです。弾頭の構造は秘密度が高いのですが、キャラメルのようなブロックが飛散するもの、金属製の割り箸のようなものが飛散するもの、ピアノ線様の輪が急速に広がり高速で接触した航空機を切断するものなど様々なものがあります。
最近のMD(ミサイル防衛)用、SM-3、パトリオットPAC-3等は特別な弾頭で、高速で落下してくる弾道弾を落下軌道上で待ち受け、直撃することにより弾頭を破壊するというものです。
一方、水上艦の破壊はどうでしょうか。第二次世界大戦の戦艦などは、装甲が厚く、強力な徹甲弾などを必要としましたが、現代の水上艦はそれ程ではありません。したがって基本的に同じ爆風効果、弾頭破壊効果が用いられます。ただし、海の上に浮いていますので、これを沈めるため、喫水線付近に穴を開け、浸水により沈没させる事を狙った兵器もあります。誘導方式は色々ですが、画像認識により、水上艦の弱点を目標とするようプログラムされているものもあります。
上に述べたように、兵器の破壊メカニズムは、対象により様々な形を用います。
では、潜水艦を破壊するメカニズムをご存じでしょうか。
戦争映画などで、爆雷や、魚雷によって攻撃を受けてしまい、最後を迎える潜水艦が描かれています。皆さんは、漠然と爆風効果や破片効果よって一気に破壊されていると考えていないでしょうか。
実は航空自衛隊員であった私も、現職時そのように考えていました。しかし、水の中では爆風も、破片も強固な構造物である潜水艦に致命的な損傷を与えることは出来ません。
ではどのようなメカニズムで、潜水艦を沈没させるのでしょうか。
私は平成24年まで、ある大学で「危機管理」などを教えていました。学生の中に「海軍オタク」が何人かいて、私の間違いを指摘したり、専門的な質問をしたりしていました。
そこで、「君たちは潜水艦を沈没させるメカニズムを具体的に説明できるか」と問いかけてみました。彼らは答えることが出来ませんでした。私が溜飲を下げたのは言うまでもありません。
では説明します。魚雷も爆雷も潜水艦の付近で爆発します。そうすると、「バブル」という大きな泡が出来ます。至近距離で爆発すれば、当然その直接的な圧力で潜水艦の外壁あるいは継ぎ目が壊れ、浸水して沈没に至ります。至近距離でない場合も、バブルによって潜水艦の一方向の水圧が高くなり、潜水艦を持ち上げたり、横に押したりの圧力となります。
「バブル」は最初の爆発の時最も大きくなりますが、水圧で押されて次には小さくなります。そして爆発エネルギーが残っていると、盛り返して大きくなります。これを繰り返しながら少しずつ小さな泡になっていきます。潜水艦は、持ち上げられたり、横に押されたりを繰り返します。そのことにより「へし折られる」または繰り返し船体を曲げられたり、折られる様な力を受けます。そして、継ぎ目部分などが破壊され浸水し、浮力を失って沈没に至ると言うことです。
他にも、操舵部分、推進部分(スクリュー)等が水圧により破損し機能しなくなり、適切な水中運動が出来なくなり、結果として沈没することもあります。このような場合、水面上に浮上することが出来るケースもありますが、水上に出てしまうと、かなり脆弱な目標となってしまいます。
「潜水艦破壊のメカニズム」、理解いただけたでしょうか。
水中に潜む潜水艦は他の兵器とかなり違ったメカニズムで、破壊・無力化するのです。(島本順光)