「自衛隊の統合運用」についての当研究所案(概要)
「自衛隊の統合運用」についての当研究所案(概要)
中国や北朝鮮の脅威が顕在化している中で自衛隊の統合運用化の検討が進んでいる。
中国の海空軍の強化・尖閣諸島への圧力の強化に直面して南西諸島の防衛体制が検討されているが、この防衛は何と言っても海上・航空・陸上の統合が必要である。
海上自衛隊は自衛艦隊の主力を南西諸島に展開する計画を立てている。航空自衛隊は沖縄に方面隊を新編し、航空戦力を強化した。陸上自衛隊は陸上総隊を新たに編成して本土の部隊を迅速に転用する体制をとろうとしている。
問題なのは自衛隊の戦力が少なすぎるので、いざとなってから南西諸島に部隊を集結し統合運用しようとしていることである。
わが国の防衛は複合事態対処が基本になっているが、これは南西諸島に圧力がかかる事態では、ミサイル防衛の体制や政経中枢の混乱やテロへの備えなども同時に対応措置をとらなければならないと思われるからである。このような事態に南西諸島に戦力を転用し統合運用ができるだろうかという疑問がある。仮に海・空・陸の部隊が集まったとしても俄仕立ての統合運用がうまく機能するだろうか?
統合運用が主体となる南西諸島防衛では平素から統合司令部を作り共同訓練を行うことが必要だろう。
このような体制を平素からしっかり作っておくことが抑止効果になるのではなかろうか。
ミサイル防衛も同様で、監視警戒の態勢から海上配備のイージス艦や陸上配備のミサイルシステム、できれば敵基地攻撃力などを統合して運用することが必要になるが、これも俄仕立てで作るのではなく平素から綿密な連携を図らなければならないだろう。
しかし目下の人員規模と予算の規模では何か起きた時に戦力を振り回して対処するしか方法はなさそうだ。これでは実体的な防衛は出来ないだろう。
幣研究所では、人員規模と予算の規模を国際常識の範囲で少し膨らませて防衛態勢を考えてみた。その概要は次のようなものである。
「自衛隊の統合運用」(抄) 防衛システム研究所(主管:松島悠佐)
わが国の防衛上の特性は次のようなことだろう。
・正面幅が広く(約3000キロ)縦深が浅くかつ島国(約6000の島)で守りにくい。
侵攻開始後の部隊転用は困難(貼り付け運用が主体となる)。
・ミサイル攻撃・テロ攻撃・南西諸島攻撃が同時に起きる可能性が高い。
複合事態対処が基本
・陸・海・空自衛隊の統合対処が基本になる
これを前提にして幣研究所で検討した一例としては、「一般的な領土領海の防衛組織(国土防衛軍)」と「ミサイル防衛の組織(防空軍)」ならびに「南西諸島防衛組織(南西諸島防衛軍)」を平素から別個の編成にして統合化を図るのがもっとも効果的だとの結論を得た。
これは有事の運用を基本にした編成であり、現在の陸・海・空自衛隊は防衛力整備や教育訓練など部隊管理を中心にして機能させるため残してある。
わが国が保持すべき防衛体制を一表にすれば次のとおりである。
細部の装備や戦い方は現代戦に精通している現役の皆さんが決めることだが、現在の自衛隊の少ない戦力を事態に応じて振り回して作る統合防衛体制では、わが国が当面する複合事態にどこまで役に立つのか心配である。
また統合運用という体制は有事になって俄かに編成しても実行は出来ないだろう。(以上概要)
将来の防衛態勢検討の一助になれば幸いと思っているが、ご意見やご感想のある方は防衛システム研究所に問い合わせ願いたい。(松島悠佐、2017.7.25)