「訓練パレード」
自衛隊に入隊すると、先ず「基本教練」というものを教えられます。
「気を付け」「休め」等個人の動作の行い方と、部隊としての動作についてです。教官も、何も知らない若者を教育するのですから、かなり早い時点で教えるのが「集まれ」です。「集合」も同じです。何事をするにも、伝えるにも整列した状態で無いと格好がつかないからです。普通は背の高い順番に左手を伸ばして間隔を取り並びます。
そこで「番号始め」といわれると、向かって左側から順に「1」「2」・・・と最後の者まで各人が番号を言います。慣れないうちは教官が「番号・・・」と言うと、「1」「2」・・・と言ってしまうことがままあります。
教官によっては、最後まで言わせて、何度もやり直させます。「番号」が予令で「始め」で始めなければならないのです。
色々な号令を教わり、自分たちでも練習します。自主的に5人ぐらいで練習しますと、号令をかける学生が間違うと、わざと言うことを聞きません。文句を言う学生もいます。すると、そのほかの学生はまっすぐ歩いて、前に木等があり進めなくなると、そこで足踏みをしたりしています。号令が下手な学生に対しては、みんな結構意地悪く、少しでも間違うと言うことを聞きません。私たちも、グラウンドからはみ出て、靴を洗う水場のところへ行き、どうしようもなくなった号令をかける学生が「止まれ」と号令すると、ストップモーションのように動作の途中で止まったりしました。もう「いじめ」ですね。
訓練期間の最後のほうになると、みな一応の号令をこなせるようになります。個人の動作、部隊の動作などです。そしてこれらの総仕上げが「訓練パレード」です。
私の入隊した幹部候補生学校は、防衛大学校卒業生、一般大学卒業生、そして技術幹部として一般大学から来たものがいました。(現在は技術幹部の課程はありません:一般大学卒業生と同じ課程に入ります)
防衛大学校卒業生は、基本教練は既にマスターしていますし、訓練パレードも何度も経験しています。したがって、最初は防大卒業生が企画立案して、全員参加で訓練パレードをします。
私たち技術幹部も当時は半年の教育期間でしたので、訓練パレードを実施する事になりました。30人ぐらいで立案するのですが、何も分らず、防大生のみようみまねで、企画立案する事になりました。
一番かっこいいのは「観閲官」役の学生です。他はみな作業服ですが、一人制服姿で、壇上に上がり敬礼をしていればいいのです。案の定T候補生(学生をこう呼称します)がやる事になりました。
私は当然「観閲部隊指揮官」役です。部隊側では一番偉い役です。2個大隊編成で、それぞれの役割分担なども決めました。最初、部隊指揮官は部隊のほうに向いて立っています。部隊人員が整うと、部隊指揮官に敬礼(頭ー中:かしらーなか)し、部隊指揮官は幕僚(通常4人)と向きを変えて、上級部隊長に敬礼をし、部隊掌握の報告をします。私は一番上級部隊指揮官ですので、全部隊の敬礼を受けます。それが終わると、幕僚が移動し私も回れ右をして、観閲官の立つ観閲台のほうに向きます。
ここで、国旗入場です。私も訓練パレードで分ったのですが、国旗は前進しかしません。回れ右や後退はしません。また、部隊にはそれぞれ部隊の旗があり、上級部隊長に敬礼しますが、当然のことながら国旗は何にも敬礼しません。通常はここで「国歌」が流れ、部隊は「気を付け」観閲官他(教官などは来賓役)はそれぞれ国旗に対して敬礼します。
次に観閲官が登壇します。観閲部隊指揮官は、部隊に直接号令をかけません。「各隊、気を付け」「各隊、観閲官に敬礼」と命じ、部隊長が「観閲官に敬礼、頭―右」(向かって左の部隊)または、「頭―左」(向かって右の部隊)と号令し、指揮官も回れ右をして敬礼します。各大隊長が敬礼したのを見届けて、私が回れ右をして幕僚とともに1,2,3でタイミングを合わせ敬礼します。
本物の観閲式などでは、「巡閲」といって、観閲官を観閲部隊指揮官が迎え、車に乗って部隊の前を通り、それぞれの部隊の敬礼を受けます。その後、部隊側は行進をするわけです。
朝霞で行われる、自衛隊観閲式では、陸海空の部隊、防衛大学校学生隊、自衛隊生徒隊、各自衛隊女性部隊などが順次行進し、その後、戦車などの装備部隊が行進します。上空を飛行機が飛び、観閲を受けます。
ここで面白いのは行進曲です。陸上自衛隊は「抜刀隊」、海上自衛隊は「軍艦マーチ」、航空自衛隊は「空の精鋭」とそれぞれ違います。
幹部候補生学校では、巡閲はせず、行進だけをしました。
後で教官の講評を受けましたが、私が各級指揮官より小柄なものを旗手(旗を持って敬礼時に上に上げ、前に倒す)にしたので、旗手がきつそうだったと言われました。配役ミスですね。
緊張の中にも、晴れ晴れしい気持ちで訓練パレードを行いました。生涯の思い出に残る行事でした。 (島本順光)