「防衛努力の相場」
「貴国は防衛努力がたりない」とか「いや、わが国は十分な努力をしている」などという議論が起きる。日米防衛担当者の間や、NATO同盟国の間でよく起きる議論である。
防衛努力は国家緊急事態の保険のようなものだから,われわれの身の回りの保険と同じくなるべく掛け金を少なくしてイザという時の保証は手厚くもらいたいと思っている。それは個人も国家も同じである。だが、そこにもある程度の相場がある。
国防費で言うと、わが国は毎年5兆円程度の防衛予算を組んでいる。国家総生産(GDP)500兆円とすれば、その1%を防衛に投資していることになる。因みに列国の状況を見ると、アメリカ3%以上、ドイツ・イギリス・フランスなどの中級国家は2%近くを投資している。
兵員数で見ると、全人口の1%以下の投資(0.5~0.8%ぐらい)が妥当な割合のようで、アメリカが0.6%、ドイツ・イギリス・フランスなどが0.4~0.5%程度である。
因みに日本は0.2%である。
戦時下で対峙している朝鮮半島では、韓国が1.5%、北朝鮮が5%を超えている。5%も軍隊に投資すると、労働人口が減ってこれでは国の生産性が上がらないのは当然だろう。
このような世界的な相場から見ると、「日本の投資は少ない。今の倍ぐらい投資してもいいのではないか」と、同盟国アメリカからもたびたび指摘されてきた。今回の防衛相会談でもそのような話が出るのだろうか。
だが、日本は米軍に基地を提供し、しかもわが国内の政治経済基盤が安定していることから、アジア・中東などの安全保障に睨みを効かせている米軍にとって、日本に基地があることは貴重な財産になっている。
日本の基地提供の負担は、なかなか金額では評価出来ないので話は簡単には決着しない。米軍への思いやり予算などいつも問題になっているのだが、総じて米軍は日本に駐留していることで大きな利益を生んでいる。そのことは元海兵隊の大将だったアメリカのマティス国防長官は十分承知していることである。
わが国の防衛力の問題は、憲法の制約を受けているので、列国の軍隊とは違う歯止めが掛かっている。その結果、「専守防衛」という戦理的には問題のある方針がかかげられ、アメリカへの依存体質がある。
さらに、核の問題では「唯一の被爆国」として特異な問題もあり、核廃絶を掲げながらイザとなったらアメリカの核に依存している。
複雑で難しい問題だが、日本の防衛努力は特異な日本の環境を前提にして質と量の両面から考えないと解決できない。
日米の強力な連携と安部総理以下主要閣僚の対応に期待している。(松島悠佐、2017.2)