「あいさつ」

結婚式などの、おめでたい時のご挨拶。いろいろな会合でのご挨拶。一般にも、たくさんの機会があります。
自衛隊では、各種会合はもちろん、行事があると必ずと言っていいほど式典があり、続いて懇親会が催されます。
駐屯地、基地の創立記念祭、各種行事では、隊員への慰労の意味を込めた懇親会が催されます。
一般でもそうですが、長い挨拶、講評的な挨拶、自慢話、古い話をされると、ほとんど参加者は聞いていません。
特に先日行われた「富士総合火力演習」などのような、訓練や演習後の指揮官の挨拶はそれによって指揮官自身の評価が決まるほど重要です。なぜなら、歴代の指揮官、先輩、近在の首長等が集まっているのですから、そこで長々と話をすると、話が面白くても、あまり聞いていないばかりか「なんだあいつは」ということになりかねません。我々も参加していて、長い話になると、後ろの席から順次私語が増えてくる場面を何度も経験しました。
陸上自衛隊の大先輩が、挨拶について面白い話をしておられました。
演習後の挨拶なども、幕僚が文案を作成し、それを若干修正したものに、オリジナリテイーを加えて話します。
ある時、演習後の挨拶について、作成を担当する幕僚に「みんなが知っていることは省こう。例えば、日付、期間、目的、成果、天候等々だ。」と指示しました。そして幕僚が原案を持ってきたので、チェックしてみると、みんなが知っていることを省くとただ一言「ご苦労さん」という言葉しか残らなかったそうです。
訓練や行事で疲れている隊員を慰労する懇親会で必要な言葉は「ご苦労さん」という一言に集約できるのでしょう。
特に、お酒やご馳走が前にあるときの長い挨拶は迷惑以外の何ものでもありません。
もちろん、その大先輩は、幹部に対しては内容についての講評などについて詳細な話を別の機会にするそうです。
私は部隊長などの経験がないため、上に述べたような会合で、挨拶する機会はほとんどありませんでした。唯一、非常に記憶に残っているのは、防衛大学校の研究科にいた時、何らかの懇親会があり、島本挨拶をしろということになりました。
その時は鍋料理だったのですが、私が話しているあいだに、仲間が野菜の下に肉をかくして全部食べてしまいました。「島本と焼肉を食べる時は、箸で押さえていないとみんな持っていかれる」というぐらいに私は食べるのが早かったせいでしょう。仲間は相談して、私に挨拶をさせたのです。
それ以来、短いスピーチを心がけてきています。それ相応の年齢に達してきましたので、結婚式での挨拶を依頼されるケースが多くなりました。ほかのケースでも応用できますので、披露したいと思います。
まず名前を名乗り、そのあとすぐ「○○さん(花婿)、△△さん(花嫁:名前)、○○家、△△家ご両家の皆様方、おめでとうございます。スピーチは短く、幸せは永くと申します。本当におめでとうございます。」これで終わりです。ほとんどの場合、大きな拍手をもらっています。

次に日常の挨拶についてですが、自衛隊では「あいさつ」イコール「敬礼」といってもいいでしょう。
防衛省の正面ゲートで、警備の自衛官が防衛大臣その他のVIPが通る時、「%$&#‘!」と言っているのを聞かれた方もいるかもしれません。あれは挨拶ではなく、報告なのです。「勤務中異常なし!」と言っています。
私が元仕えていたT参議院議員が部隊訪問する時はゲートで警備分隊が整列して「捧げ銃」で出迎えます。陸上自衛隊ではラッパで出迎えてくれることもしばしばでした。ほかの衆議院・参議院議員ではこうはいきません。やはり、元空将で先輩にあたりますので、このような出迎えになるのです。T参議院議員は必ず、警備分隊の手前で車を止め、車から降りて、分隊長に握手をしました。分隊長は敬礼していますので、握手を求められると、戸惑いますが、握手に応じてくれます。帰りも同じように握手をして帰ったものです。
部隊に行きますと、VIPの乗車している車はライトをつけます。自衛官が乗車している場合は、将補は2個、将は3個、幕僚長は4個、防衛大臣は5個の桜マークの入ったボードをフロントガラスのところに掲げます。
隊員はVIPに対して、正対(体をそちらに向けること)して、敬礼します。中には「おはようございます」などと発声する者もいますが、大体は「オッス!」ぐらいにしか聞こえません。それでも、きちんと正対して挨拶をする部隊はピーンと緊張状態にあり、指揮官の躾が行き届いているなと感じます。
ゲートを通るとき通常は車から降りません。警備分隊のいる方の窓を開け答礼するのが礼儀です。ここで、ちょっと一般の方が間違いやすいことがあります。先任者が答礼する時、同乗者も、ついついお辞儀をしてしまうことです。警備分隊の敬礼は先任者に対する敬礼であるため、同乗者は姿勢を正すだけでいいのです。部隊を見学するときなど、衛門を通過するときには心得ていただきたいと思います。自衛隊員がバスやトラックで衛門を通過するときは「気を付け」の号令がかかり、乗っている者は姿勢を正します。先任者のみが敬礼をします。
それと敬礼に関して一点、各国の軍隊と違う点があります。自衛隊では室内で敬礼をするとき、脱帽状態では、挙手の敬礼はしません。他国の軍隊には「おじぎ」というものがありませんので、室内で脱帽状態でも挙手の敬礼をしますが、我が国は室内では「お辞儀」をするのを礼としています。従って室内では上体を10度前傾する敬礼を行います。
因みに自衛隊には10度の敬礼と45度の敬礼があります。45度の敬礼は天皇陛下、国旗、隊員の棺に対してする敬礼だけです。(島本順光)