「防空識別圏」
2013年11月23日に中国が突然「防空識別圏」いわゆるADIZ(エイディズと呼んでいる)を、尖閣諸島を含む空域に設定したと言い出しました。
この話で、30年以上前の話を思い出しました。私の上司だったT将補(当時)が航空幕僚監部の装備部長のころ、若手幹部一人ひとりに「君が航空幕僚長になったら何をするか」と質問しました。そのとき印象に残ったのが、M3佐が言った「私が航空幕僚長になったら『ADIZ』を変えます。」ということだったと聞きました。
M3佐の意図は、「当時のレーダー配置では、設定されているADIZ内を適切に監視管轄できないので、ADIZの範囲を実態に合わせて変更するか、適切に監視管轄できるようレーダーサイトおよび機材を配置すべきである。」というものでした。
すなわち、先島諸島、大東島周辺海域など、数か所でレーダーカバーできないところがあったのです。さらに、低高度で侵入してくる対象機には対応できないと分かっていたのです。
これは、その前の1976年に起こった。旧ソ連空軍の「ベレンコ中尉亡命事件」を踏まえてのものでした。この事件は、1976年9月6日、旧ソ連からMig25戦闘機で我が国の函館空港に強行着陸し、亡命を図ったという事件でした。
高度があるときにレーダーで探知し、スクランブルをかけたものの、低空飛行になると、見失ってしまったのです。
低高度で侵入してくる航空機を、地上レーダー、機上の戦闘機(F-4EJ)の持つレーダーで捕捉できなかったのです。ベレンコ中尉は亡命目的だったのですが、戦闘目的であった場合、攻撃を受けてしまいます。これを機会に、空中警戒機E-2Cが整備され、その後E-767空中警戒管制機や、地上レーダーの改良がおこなわれました。また、戦闘機の低空監視能力(ルックダウン能力という)も格段に向上しました。
残念ながらM3佐は航空幕僚長になりませんでしたので、当時とほぼ同じADIZのまま、今日に至っています。(一部、台湾との国境付近で変更がありました)
今回の一方的な宣言で、中国は国際的な非難を浴びています。しかし、宣言すればよいというものでもありません。上に述べたように実態が伴って初めて有効になるものです。米国の国防長官が「懸念」を表明してすぐ、B-52爆撃機による訓練飛行を中国の主張する空域内で通告なしに行いました。中国側は、全行程を把握していたといっていますが、怪しいものです。第7艦隊が演習を行うときには、必ず近くに来て情報収集していることから考えると、もし捕捉しているのであれば、何らかの対応をとったと思われます。(島本順光)