使命感・任務意識 体験編
自衛隊には様々な教育があります。その中で、唯一試験で選抜されるのが「指揮幕僚課程」という、陸・海・空の幹部学校での課程です。
旧陸海軍の「陸大、海大」に相当します。幹部自衛官として昇任の登竜門と言える課程です。
このお話を読んでいただいている現職の方にも参考になると思うので、私の体験談を述べてみたいと思います。
私は航空の29期ですので、ずいぶん昔の話ですが、受験を控えて準備のため、課程主任補佐経験のある方に、1時間教育をしていただくことになりました。
その方が来られて、いきなり、こう質問されました。「島本君、君は今、何の仕事をしているのかね」、当時私は現在のT-4中等練習機のエンジンについて担当していましたので「XF-3というエンジンの開発を担当しています」と答えました。すると「ホ―、XF-3エンジンというのは何のために開発しているのかね」が次の質問でした。私は「MTX(T-4の構想段階の名称)という中等練習機に搭載予定のエンジンです」と答えました。すると「フムフムなるほど、ところで、その中等練習機は何のために開発するのかね」が次の質問です。「T-33後継の中等練習機として、パイロット教育に使用するものです」と答えました。「フーン、パイロットを教育してどうするのかね」が次の質問です。そんなこと分かり切っているではないかと、いささか気分を損ねてきましたが、 「航空自衛隊の戦力として、中核となるパイロットを育成するためです」と答えました。さらに追い打ちをかけての質問は「中核となるパイロットを育成してどうするのかね」、私は「(「そんなこと決まっているではないか」とは言いませんでしたが)航空自衛隊の戦力の中心となり、航空戦略の基本を構築することになります」と答えました。
そうするとやっと「そうだろう、部隊等に行くと、忙しくてCS(指揮幕僚課程の略称、ちなみに陸はCGS)の勉強ができないなんて言う輩がいるが、君のように開発担当だろうが、会計だろうが、教育だろうが、直接戦略などに関係ない場所で働いていても自分の任務を真剣に深く考えていけば、すべて航空自衛隊の戦略に関連していくのだ、したがって、自分の任務を突き詰めて深く考えていくこと、すなわちCSの勉強なのだ。本当の意味で任務意識を持てば、航空戦略を常に頭においていなければならない」と言われました。深く感銘したのは言うまでもありません。
もう一つ、質問がありました「会議というのはどういうことかね」と言われて、どう答えて良いか分からず、なんだかんだと言っていましたら。「会議というのは、会議に参加したメンバーのポテンシャルが、会議に入る前より、会議の後で上がっているものだ」と教えられました。
CSの試験では、筆記試験、面接試験、グループ討論というのがあり、グループ討論についての示唆を頂いたと理解しました。
いざ、試験に臨み、グループ討論になりました、少し事前に打ち合わせをする時間が与えられるので、その時、最後に司会になった者は終了時間がきたら、とにかく「そういうことで、会議というものはグループのポテンシャルを上げるものです、その目的は十分に達したと思います」と言おうと打ち合わせしました。
我々のグループは6人中5人が合格しました。私も合格者の一人であったわけです。他のグループは半数ぐらいの合格者です。
このように、質問を受け、自分の任務意識を広く持ち、突き詰めて考えることの重要性について教えていただいたことは、人生の大きな収穫でした。どの社会でも同じことが言えると思います。また、会議についても、ただ長いばかりで何をしているのか分からないことが多いですが、「ポテンシャルを上げる」という会議の目的をしっかり理解して全員が臨めば、時間も短く有効な会議になるのではないでしょうか。
教育していただいた方は、話が終わると、一切無駄なことは言わずに、悠然と席をお立ちになりました。ちょうど1時間でした。