軍事力の透明性
中国の国会に相当する全人代(全国人民代表大会)が始まって、今年の国防費も前年比10%を越える増加を発表した。わが国の2倍を超える国防費だが、中国は「国家の海洋権益を守るためである」と言っている。
わが国もアメリカも中国の軍事力増強は不透明であると言って、何のためにそれほどの軍事力を強化する必要があるのかと批判している。
だが、もともと軍事力に透明性を期待するのは無理なことである。相手に手の内を読まれないように、不透明な状態にしておくのが抑止効果にもなるからである。
中国になぜそれ程の軍事力強化が必要なのかと問えば、自国防衛のためであると答える。これも当然だろう。他国を攻撃するために軍事力を強化していると主張するような国はないからである。
中国人としては、自国の周囲に相当広範囲の安全地帯を作っておかないと安心できないという感覚を持っている。これは清王朝の昔から変わらない中国人の意識である。
東シナ海・南シナ海を領海化するためには、さらに南西諸島を越えて西太平洋にまで行動できる軍事力を持つことが自国の防衛に必要なことと考えているのだろう。
わが国も中国の不透明性を批判するだけではなく、遠慮せずに自国防衛の主張を堂々とするべきである。
すなわち、「中国が西太平洋にまで行動できる軍事力を持つのは勝手だが、東シナ海の東半分は日本に権益があり、尖閣諸島を含め南西諸島は日本の領土であり、一切の干渉は許さない。わが国はそのような干渉を排除するために必要な防衛力を準備すると共に、日米安保を強化する」という主張である。
それが中国に対する正しいシグナルだろう。
日本が自ら十分な防衛体制も採らずに、中国の軍拡を批判ばかりしている姿勢は、中国へ誤ったシグナルを送ることになる。
すなわち「東シナ海の領海化や西太平洋への進出のために、南西諸島を牽制下に収めることができるのではないか」というシグナルである。
中国に付け入る隙を与えてはならない。
安倍総理が遠慮がちに進めている防衛力強化の施策は、もっと堂々と積極的に進めるべきではなかろうか。
「軍事力の透明性」というのは、こういうことを明らかにすることだろう。(松島悠佐)