防空識別圏(ぼうくうしきべつけん:Air Defense Identification Zone,ADIZ)

「防空識別圏」は、各国空軍が、自国の領土を航空攻撃から守るために設定している空域である。
これは、航空機の速度がきわめて速いことから、対象機が領空侵犯してからでは対応が遅れるためである。ある程度の距離を領空の外側に設定するのが通常である。十分な領域が取れないほど、領空が近接している場合には、一応、中間線上に設けている場合が多い。
我が国周辺の防空識別圏は、第2次世界大戦後、米軍が設定したものとほぼ同じである。
事前の通告なしに、防空識別圏に接近する航空機があり、対応を要すると判断した場合、緊急発進(スクランブル)で対応する。このため、航空自衛隊の各基地では、武装して待機する航空機が準備されている。スクランブル発進した自衛隊機は、対象機が領空侵犯しそうになると、「通告」「警告」「警告射撃(自衛隊では「信号射撃」という)」「強制着陸」などの「対領空侵犯措置」をとることになる。
中国が最近、にわかに尖閣諸島周辺を含む「防空識別圏」の設定を発表した。「防空識別圏」を設定したからといって、領土領空を得るわけではないが、逆に領土、領空を主張する以上、「防空識別圏」を設けるのは、当然のことである。中国はこれに気が付いて、突然の設定発表となったのであろう。このことは、今後、中国が尖閣周辺海域に、監視のための船舶を常駐させ、さらに領空侵犯対処のための航空機などの準備を進めるであろうことを意味する。
いち早く反応したのが米国である。先に述べた我が国周辺の防空識別圏設定の経緯にも関係するが、防空識別圏の性格上、尖閣諸島周辺での緊張を高め、偶発的衝突を生じる危険性がきわめて高いからである。
旧ソ連時代、大韓航空機(民間旅客機)はソ連領空を侵犯したため、スクランブルしてきた戦闘機にロケット弾で撃墜されてしまった。1983年8月31日に起こった、いわゆる大韓航空機撃墜事件である。269人が犠牲になっている。
これが戦闘機同士の遭遇になればどのような状態になるか予想できない。
 このことを、米国は熟知しているから「地域の緊張を高める」と強い懸念を表明しているのである。
一方、中国は米国や、日本に「誤りを認めろ」などと開き直っている。
今回の「防空識別圏」設定発表は、かつて、中国が、尖閣諸島周辺で領有権を主張しだした経緯と酷似している。
今回の中国の行動は「後出しジャンケン」であるにもかかわらず、「勝ったのは俺だ」と主張する、わがまま国家であることを国際的に証明している。
生起するであろう事態について考慮せず、自国の主張のみを強引に正当化する中国の無法ぶりは今回の「防空識別圏」設定で、より一層明確になった。