「航空母艦」
本年8月6日に海上自衛隊の新しい護衛艦「いずも」が進水しました。
わが国ではあまり話題にならなかったのですが、欧米のメディアで取り上げられ、中国では「軍国主義化」の象徴のように報じられてから、我が国でも報道されました。
「いずも」は海上自衛隊曰く「ヘリ搭載護衛艦(駆逐艦)DDH」ですが、常識的には「ヘリ空母」とでもいうべきでしょう。「いずも」は「22DDH」と言われます。22年度に予算化されたヘリ搭載護衛艦という意味です。
いずもの後継艦24DDHは「DDHくらま」の後継艦となります。写真を見てもらえば一目瞭然ですが、ちょっと無理があるのではないでしょうか。
欧米の専門家も満載積載量が2万トンを超える「ヘリコブター搭載駆逐艦」と言っても、首をかしげるのではないかと思います。
「いずも」は対潜任務はもちろん、救難、輸送、補給、病院など数々の任務をこなすべく製造されています。一方で個艦防御能力(自分自身で守るための武装など)は前級の「ひゅうが」などに比べて落ちています。海自独自の艦別を新設しても良いのではないでしょうか。
もちろん、攻撃型空母を装備し、通常型空母を作ろうとしている、中国にとやかく言われる筋合いはありませんが、関連する色々な質問を受けることになりました。個別には別途答えたいと思いますが、ここでは、航空母艦について基本のところから解説したいと思います。
そもそも「航空母艦」を主体とした「航空戦隊」の整備を進めたのは帝国海軍です。第2次世界大戦開始前の航空母艦保有数は、日本が10隻だったのに対し、米国は8隻しか保有していませんでした。特に太平洋方面では5隻しか持っていませんでした。ただ、航空戦隊の威力を知った米軍は、終戦までに80隻を超える航空母艦を建造し、戦線に投入しています。これに対し、我が国は25隻しか建造できませんでした。
現在の航空母艦の頂点に立つのは米国のニミッツ級原子力空母です。米海軍は10隻保有しています。ほかにこれに対抗できるものはありません。
他にフルサイズの航空母艦を保有しているのはフランス海軍ですが、わずか1隻だけです。「シャルルドゴール」がそれです。
米海軍のニミッツ級空母は総トン数10万トン、長さが約330メートルあります。わが国の国会議事堂がちょうど10万トン、300メートル程度ですので、国会議事堂が海に浮かんでいると思っていいと思います。
航空母艦のキーとなる技術は三つあると言われています。
一つはカタパルト、一つは飛行甲板の耐熱表面塗装、もう一つが航空機を艦内の格納庫へ収納するためのエレベータです。
第2次大戦時に比べると、航空機の速度が飛躍的に高速になっていますので、短距離で高速まで加速できるカタパルトが必要なのです。現在は蒸気を動力としていますが、次世代ではリニアを使用する計画です。
発、着艦時に高温のジェット噴射を受ける飛行甲板は耐熱塗装が施されています。
さらに、波やうねりによって動揺する船体において、甲板の航空機を内部の格納庫に入れるエレベータも技術的に難しいものです。
この三つのキー技術のうち「いずも」は一つだけ修得できることになります。
それは船外に張り出したエレベータです。前級までは、甲板中央部にエレベータが設置されていたため、収納する機体の大きさが制限されました。船外配置になるとかなり大きな機体でも昇降・収納できます。
MV-22またはCV-22「オスプレー」は搭載可能ですが、繰り返しジェット噴射を甲板に受けると甲板が損傷するので、常時搭載運用することは、今のところ難しいでしょう。飛行甲板に耐熱塗装を施す必要があります。
ニミッツ級空母が装備するカタパルト技術は、運用方法と相まって、最も難しい技術です。通常性能の戦闘攻撃機などの航空機を発艦させるためには必須のものです。
米海軍とフランス海軍以外では、STOVL機(Short Take-off&Vertical Landinng:短距離離陸・垂直着陸機)を使用しています。ハリアーやSu-33などです。
中国海軍は、この段階のさらに前といったところでしょうか。
しかし、本当に難しいのは「空母運用」です。第2次大戦以降、営々と築いてきた米海軍の空母運用技術は、装備を持ったからと言って、早々まねのできるものではありません。
また全盛期の「ソ連」が空母を持ち、滅んで行ったように、空母運用には莫大なお金がかかります。それに耐える経済力を持つのも米国だけなのが現状です。
中国は急速に国力を付け、海洋進出を企図していますが、しょせん陸軍国です。
「ソ連」の失敗を教訓としているのでしょうか。
その点、海洋国家である我が国の海上自衛隊は、少しずつですが技術を取得しながら、我が国周辺海域の安全を守るための装備と運用技術を整えていると言えるでしょう。(島本順光)