「ガラケー」
先日、インターネット電話の会合に出た際、盛んに「ガラケー」なる言葉が出ていた。正直私は意味が分からず、どういう意味か後で知った。
「ガラパゴス携帯」ということだそうだ。いわゆるフツーの携帯に、色々なアプリが備わり、独自に進化しているが、世界ではほとんどが、いわゆるスマホ(スマートフォン)になっていて、日本だけ特殊な存在だそうだ。
この言葉を聞いて、おもしろ話を書きあぐねていた私が、ハッとこれだと思った。
実は、自衛隊おもしろ話の大きな部分が、陸・海・空各自衛隊の違いについての解説であるのは読者諸兄も感じておられることと思う。世間的には「専門バカ」という言葉があるが、真摯に任務に励んでいる自衛官に「バカ」という言葉は使いたくなかった。
そこで「ガラケー」という言葉が非常に適切だなと思った次第である。
私自身も含めて、陸・海・空各自衛官は他自衛隊のことのみならず、他職種のことにもかなり疎いのが事実だ。まさに、各々が独自に発展している集団である。
先日、陸の大先輩から「島本君、沖縄周辺の訓練空域でホテルHかHホテルというのがあるらしいが教えてくれないか」という質問を受けた。ホテルHも、Hホテルもかなり怪しいので、「Hのことをホテルといいますよ。H空域ではありませんか」と答えたところ、「いや、違うらしい」ということだったので、調べることにした。
ご存じのように、自衛隊、米軍では、聞き間違いを防ぐため「A」のことを「アルファー」、「B」のことを「ブラボー」、「C」のことを「チャーリー」、以下それぞれ全アルファベットを別名で呼ぶ。また、ノーとは言わず、「ネガテイブ」、イエスといわず「アファーマテイブ」または「アファーム」という。
たまたま、次の日にパイロットだった先輩と会う機会があったので、「先輩、ホテルHかHホテルという空域が沖縄周辺にありますか」と質問したところ「俺は2空団司令だったけど、沖縄に行ったことがなく知らないなー」との答えだった。そこでネットで探してみたら、北からA、B、C・・・と順次空域名が指定されていることを知った。私自身そういえば、岐阜基地に数年勤務していたが、空域についてはG空域(日本海の能登半島沖から若狭湾沖)、K空域(遠州灘沖)、J空域(高山周辺上空)しか知らなかった。
そこで、警戒航空隊で機上警戒幹部をしていた後輩に聞くと、案の定知らなかった。
しかし彼は「調べます」とのことで、すぐに回答してくれた。その答は「HH空域であり、米海軍の訓練空域です。沖縄本島東に設定されています。自衛隊の訓練空域と区別するためにアルファベットを二つにしたと思われます。」とのことであった。早速、陸の大先輩に回答したが、ことほど左様に、自分の職務にかかわることは極めて詳細に知っているが、他職種のこととなるとかなり疎いものである。ましてや文化、生い立ちの違う陸・海・空各自衛隊間ではミスマッチがかなり多いのである。
最近、統合作戦が盛んに言われる。作戦となると、非常に細部までそれぞれが一体でなければ成り立たない。ところが現状は上に述べた如くである。
統合作戦の先輩格である米軍は、陸・海・空及び海兵隊の4軍と沿岸警備隊が、それぞれの役割を明確に分担しており、組織的に対応する体制を構築している。中でも、海兵隊は、すべて海兵隊で対応できるように組織化されているため、空軍の全般航空優勢と、海軍の全般海上及び水中安全確保、さらに空母群による前方航空優勢の下、統合戦闘力を発揮できるようになっている。
米軍は「外征軍」、わが自衛隊は「戦略防御」という違いはあるが、島嶼防衛、島嶼奪還作戦などでは、統合攻撃力を発揮する必要がある場合が想定される。
今後、水陸両用戦闘車両など装備品の充実が図られるようであるが、何よりも「人」である。陸・海・空の役割分担を明確にし、訓練により齟齬をなくし、統合戦闘力の発揮を図ることが必要であると考える。(島本順光)