日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)の締結

昨年来の懸案だった日本と韓国との間の軍事情報共有のための協定が、来週にも成立する可能性が出てきた。
本来は、今年の5月に成立するスケジュールで進められていたのだが、韓国人の心底に今尚存在している植民地支配の頃の対日不信感に考慮して棚上げになっていたものである。
韓国政府が、協定締結に警戒感を示している一部輿論の反対を押し切ってでも今回締結に踏み込んできたのは、北朝鮮が軍事的な挑発を繰り返している実態に配慮したものだろうと報じられている。
さらに、対中国の包囲網として、日本・韓国・フィリピン・オーストラリア(中国はアメリカの対中U字体制と見ているようだが・・・)の結束を強化するため情報を共通する事の重要性を、アメリカが期待しているという背景もあったと分析されている。
わが国は2007年4月、アメリカとの間に「軍事情報保全包括協定(GSOMIA)」を締結しているが、これは相手国から受け取った情報を厳格に保全し第三国への機密情報漏洩を防止するための協定であり、保全が義務付けられている。
軍事情報活動の実態は、通常の情報収集(軍事衛星、レーダー、通信傍受などの手段による情報収集)の他に、諜報(スパイ等による重要書類の入手、秘密会議の盗聴など)、さらには謀略(相手を陥れて指揮機関などの破壊、混乱を誘導)の手段を組み合わせて使うのが通常で、相当きわどい手段も使われている。
また、そのような相手の情報活動に対して、これを無効化する対情報活動(自衛隊では保全といっているが)も活発である。
例えば、わが国内でもアメリカ・ロシア・中国・朝鮮半島等の諜報員が在日外国公館・民間企業・メディアの中に紛れて活動しているのは周知のとおりであり、外務・防衛のコンピューターへの不正アクセス、サイバー攻撃もしばしば起きている。
また、わが国周辺では、米軍の軍事衛星・ステルス偵察機による偵察、電波情報の収集、中国の調査船、潜水艦による情報収集、北朝鮮の拉致・工作船・潜水艇の潜入など、各国の情報戦・対情報戦が相当入り乱れて展開しているのが現実である。
日本は米軍・韓国軍から貰った情報を漏洩しないようにしなければならないが、わが国には機密漏洩を罰する法律が整っていないという基本的な問題がある。
現在、わが国の秘密漏洩に対する罰則は、一般には1年以下の懲役または3万円以下の罰金、日米安保条約に関連して、米軍の機密を漏らして米軍の安全を害したような場合には10年以下の懲役となっている。これに対して、米国はじめほとんどの国は、スパイ行為に対する最高刑は「死刑」である。
戦前までは、列国と同様の機密保護法が整っていたが、米軍の占領政策の一環として、刑法に規定してあった間諜罪・利敵行為罪(83条~86条)が削除され、また軍事機密法(昭和12年公布)、国防保護法(昭和16年公布)などの秘密保護特別法も廃止された。これによってわが国は、よく言われるように「スパイ天国」になっている。
これから頻繁になってくる北朝鮮のミサイルや大量破壊兵器に関する情報あるいは中国の軍拡に関する情報、南西諸島海域での活動など、緊密に米軍はじめ韓国軍の情報と連携することが重要になり、わが国の機密保護の信頼性を高めることが必要となってくる。
そのためには、関係諸外国と同程度の「機密保護法」を整備することが必須だが、一部の政党・政治家・メディアの反対で進んでいない。
これを機会に、「機密保護法」の整備を再び検討しなければならないのではないかと思う。(松島悠佐)